父親の形見

職場の同期の父親が亡くなった。まだそんなに歳ではなかったのに、突然のことに驚いた。昔にしては珍しく面倒見の良い父親で、休みの日はいつもキャッチボールをしてくれたり、ご飯を作ってくれたり、夏休みは毎年、子供を連れてキャンプに連れて行ってくれたそうだ。大人になった今では、一緒にお酒を飲めるようになり、嬉しそうにしていたそうだ。同期も尊敬する父親が亡くなり、憔悴しきっていた。そして葬儀が終わり、気持ちが落ち着いた頃、弟と相続のことを話し合わなければならないと思ったそうだ。それから父親の形見についても弟と分けなければと思っていた。父親は時計が好きで、高価な時計を沢山持っていた。特に、自分たちが産まれたときに買った時計については「これは将来、おまえらにあげるからな」と言っていたそうだ。そう思って、父の部屋の時計を見に行ったら、全てなくなっていたそうだ。弟が売ってしまったのだ。もちろん産まれたときに買ってくれた思い出の時計も。弟は借金があり、どうしてもすぐにお金が必要だったために売ってしまったそうだ。同期は「どうしてそんなことをしたんだ!あの時計まで売るなんて許さない!」と弟を殴ってしまったそうだ。母親はその様子を見て「気持ちはわかるけど、もう仕方がないじゃない、反省しているんだから許してあげて」と泣きながら言ったそうだ。時計など高価なものは、相続財産になるので勝手に持ち出してはいけないそうだ。同期は弟が時計を売ったお店を訪ねて、取り返そうとしたが、既に売れてしまい戻ってこなかったらしい。同期と弟はそれ以来口を聞いていないそうだ。